180

「こら、翼、行儀が悪いぞ」


「しょうがないでしょ。あたしは父親似なんだから」


 父親似ってなんだよ。

 嬉しい反面微妙だろう。


「翼は女の子なんだからさ、もっと女らしくしろ。愁を少しは見習え、愁は生徒会役員なんだよ」


「は?だから何?意味わかんない。生徒会役員が偉いっていうの?愁がクソ真面目なだけじゃん。黒縁メガネもガリ勉みたいでダサッ。いくら頭が良くても、それじゃ女子にモテないよ」


 俺は翼の憎まれ口に、大きく溜め息を吐く。


 やっぱり男親だけの子育ては失敗かな。

 思春期の娘って、本当に手に負えない。


 俺と奈央は翼が七歳の時に離婚した。愁は六歳だった。二人ともまだ公立小学校の低学年だった。


 奈央は離婚後、勤務していた英会話教室の経営者と再婚をした。風の噂では子供も二人いるらしい。


 ◇


 ――七年前――


 クリスマスの夜。子供達が寝静まったあと、奈央が俺に大切な話があると言った。奈央へのクリスマスプレゼントも用意していたが、他に欲しいものがあるのだと単純にそう思った。


『何か買いたいものがあるのか?』


 奈央は小さな溜息を吐き俺を見つめた。


『いつもあなたはそうね。私の気持ちなんて理解していない。……真……私と別れて下さい』


『別れる?クリスマスなのに悪い冗談だな』


『冗談じゃないわ。本気よ』


 窓の外は雪がちらついている。白い雪が暗闇の中で光っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る