【18】愛の道しるべ

真side

179

 ――あれから十二年、都内のマンション――


「おい、翼、何やってんだよ。早く支度しろ!愁もいつまでトイレに入ってんだよ。そんなにトイレが好きなら、愁の部屋にするぞ」


「もう、煩いな!愁にトイレを占領されたら、困るんですけど」


 十四歳になった翼が、自分の部屋からダラダラと出てくる。父親を尊敬することもなく、反抗期の真っ只中だ。


「翼、またメイクして!受験生なのに何やってんだよ!早くメイクを落とせ。内申書に響くだろ」


「やだよ。マスカラとグロスをつけただけじゃん。みんなやってるよ。内申書なんてどうだっていいし」


「いいわけないだろう。何度学校に呼び出されたと思ってるんだ。いちいち口答えせず、早くご飯を食べなさい」


「はいはいはい」


「『はい』は一回でいい」


 翼はかったるそうに、ダイニングテーブルの椅子に座りカップスープを啜る。


「翼、もうすぐ学校で三者懇談があるはずだ。プリント捨ててもわかるんだからな。もう進路は決めたのか?第一志望は?」


「あたしの偏差値と、パパの経済力なら公立でしょ。パパはまだ塾長兼講師だし。伯父さんピンピンしてるし、いつまで経っても取締役社長にはなれないよ」


「翼、伯父さんに失礼なこというな」


「それとも有名進学塾の講師のプライドをかけて、あたしを名門私立高校に進学させてみる?セレブなお嬢様ばかりの高校も面白いかも」


「パパの経済力じゃムリだな」


 進学塾の後継者として内外から認められてはいるが、新宿校の塾長とは名ばかりで、俺はまだ講師も兼任している。


「父さん、今週家庭訪問だから」


 トイレから出てきた愁が俺に視線を向けた。愁は翼とは性格も正反対で生真面目で大人しいが、成績はかなり優秀だ。


「家庭訪問か……。大掃除しないといけないな。三人で手分けしてやるからな」


「まじで言ってるの?あたしはパス。あたしの家庭訪問じゃないし、愁がしなよ」


「……はい。僕がやります」


 翼がパンをかじりながら、愁に命令をする。

 なんだかんだいいながらも、弱虫な愁のボディガードは翼の役目だ。


 どこでどう育て方を間違えたのか、まるで昔の空にそっくりだよ。

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