【18】愛の道しるべ
真side
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――あれから十二年、都内のマンション――
「おい、翼、何やってんだよ。早く支度しろ!愁もいつまでトイレに入ってんだよ。そんなにトイレが好きなら、愁の部屋にするぞ」
「もう、煩いな!愁にトイレを占領されたら、困るんですけど」
十四歳になった翼が、自分の部屋からダラダラと出てくる。父親を尊敬することもなく、反抗期の真っ只中だ。
「翼、またメイクして!受験生なのに何やってんだよ!早くメイクを落とせ。内申書に響くだろ」
「やだよ。マスカラとグロスをつけただけじゃん。みんなやってるよ。内申書なんてどうだっていいし」
「いいわけないだろう。何度学校に呼び出されたと思ってるんだ。いちいち口答えせず、早くご飯を食べなさい」
「はいはいはい」
「『はい』は一回でいい」
翼はかったるそうに、ダイニングテーブルの椅子に座りカップスープを啜る。
「翼、もうすぐ学校で三者懇談があるはずだ。プリント捨ててもわかるんだからな。もう進路は決めたのか?第一志望は?」
「あたしの偏差値と、パパの経済力なら公立でしょ。パパはまだ塾長兼講師だし。伯父さんピンピンしてるし、いつまで経っても取締役社長にはなれないよ」
「翼、伯父さんに失礼なこというな」
「それとも有名進学塾の講師のプライドをかけて、あたしを名門私立高校に進学させてみる?セレブなお嬢様ばかりの高校も面白いかも」
「パパの経済力じゃムリだな」
進学塾の後継者として内外から認められてはいるが、新宿校の塾長とは名ばかりで、俺はまだ講師も兼任している。
「父さん、今週家庭訪問だから」
トイレから出てきた愁が俺に視線を向けた。愁は翼とは性格も正反対で生真面目で大人しいが、成績はかなり優秀だ。
「家庭訪問か……。大掃除しないといけないな。三人で手分けしてやるからな」
「まじで言ってるの?あたしはパス。あたしの家庭訪問じゃないし、愁がしなよ」
「……はい。僕がやります」
翼がパンをかじりながら、愁に命令をする。
なんだかんだいいながらも、弱虫な愁のボディガードは翼の役目だ。
どこでどう育て方を間違えたのか、まるで昔の空にそっくりだよ。
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