礼side

169

 LITTLE MILKYの新装開店の日。ショップは大盛況を見せる。雑誌の影響は本当にすごいと実感する。


 あまりの忙しさに、私も店内で接客をする。


 混み合った店内で、二十代前半くらいのチャーミングな女性が、周囲を気にしながらも、子供服を慎重に選んでいた。


 何かを探しているかのようなその様子に、私は声をかける。


 艶々した白い肌に大きな瞳。とても子供がいるとは思えないくらい、若々しくて可愛いらしい女性。


 私は彼女に女児用のワンピースや男女兼用の赤いパーカーを勧める。派手な金銭感覚でもなく堅実な姿に共感する。


 こんなに素敵な奥様を持つ男性は幸せ者だよね。


 そう思ったのも束の間、彼女の言葉に私は心臓を撃ち抜かれたくらいの衝撃を受けた。


 ――領収書の名前は、西本……。


 西本……!?


 ご主人は塾の講師だと彼女はそう言っていた。


 まさか……?

 そんな偶然があるのだろうか?


「西本様、ご主人様は塾の講師をされているとか……。もしかして、西本真さんの奥様ですか?」


「ええ、主人をご存知ですか?」


 この女性は……

 真君の奥様……!?


 真君が結婚していたという衝撃よりも、子供が二人いるということが、私には大きなショックだった。


 二年という年月は、私達の運命を大きく変えてしまった。


 あの時、私は本宮と別れない選択をし、真君は彼女との結婚を選択をしたんだね。


 真君は今……幸せなんだ。

 美しい奥様を見ていると、それくらいわかる。


 ――【君に感謝している。君を愛している。だからこそ、自由にしたい。】


 パソコンでしか会話できなかった本宮の声が、脳裏に蘇る。


 もう……遅いよ……。


 もう……行き場を失ってしまった。


 迷子になった渡り鳥のように、私の心は空白の時間をくるくると旋回している。

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