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マンションに帰ると、真はいなかった。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、ふと視線をテーブルに向けると、一枚のメモがあった。
【子供達と公園に行く】
私は彼女にもらったものを、紙袋ごとクローゼットの奥に隠した。彼女に逢いに行ったとは、真には口が裂けても言えない。
家を出てマンションに隣接する小さな公園に向かった。真は汗だくになりながら、翼と愁をブランコで遊ばせていた。
太陽の陽射しが、三人の笑顔をキラキラと輝かせていた。
可愛い子供達、子煩悩な夫……。
目の前に幸せはあるのに、私はその幸せに背を向けた。
「ママー!」
背後から、可愛い翼の声。
小さな足音が私に走り寄った。
「ママー!」
まだカタコトしか話せない愁が、翼の後を追うように駆けてきた。
私は笑顔を作り、両手を広げ子供達を抱き締める。
「ただいま。いい子にしてた?はい、アイス買ってきたよ。木陰で一緒に食べようね」
「わーい!アイス!」
「わーい!アイチュ」
子供達を木陰のベンチに座らせる。アイスクリームを美味しそうに舐める子供達。
「パパもアイスあるよ」
真が笑顔でこちらに歩み寄る。
――この幸せは、誰にも壊させない。
壊していいのは、私だけだ。
「お帰り、奈央、ショートヘアにしたんだな。似合ってる。綺麗だよ」
「ありがとう。はい、パパ」
私は真にアイスクリームを手渡す。
「サンキュー」
真が私に向けた笑顔。
この笑顔は、あの人には絶対に渡さない。
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