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「そうなんですか?一緒に暮らしていたので、家庭教師の件は知っていましたが、社長さんがその時の生徒さんのお母様だったなんて……。大変失礼しました」


「いえ、西本さん結婚されたのですね。お子様もいらっしゃるなんて驚きました。これは私からプレゼントさせて下さい。西本さんにはとてもお世話になったので、これは御祝いです」


 彼女は赤いパーカーを丁寧に畳み、可愛い動物がプリントされたタオルハンカチと、小さな熊のぬいぐるみを一緒に箱に詰め、赤い包装紙でラッピングしリボンをつけてくれた。


 小さな包みを紙袋に入れて渡され、私は動揺している。


「困ります。主人に叱られてしまいます。代金はお支払いしますから」


 彼女は和かな表情を私に向け、優しく微笑んだ。


「西本さんではなく、お子様にプレゼントさせて下さい。西本さんに宜しくお伝え下さいね。是非、ご家族で遊びにいらして下さい」


 ――その瞬間……。


 私は彼女に負けた……と、そう感じた。


 大人の態度、凛とした立ち振舞い。


 彼女の美しさと懐の大きさに、私は太刀打ちできない。


 彼女は商品代金を最後まで受け取らなかった。

 私は彼女に子供の洋服をプレゼントされ、劣等感すら抱いた。


 彼女に、『真にはもう妻子がいる』のだと、『だからあなたの立ち入る隙はない』のだと、その事実を突きつけたくて、ここに来たのに。


 彼女は動じるどころか、私達を祝福してくれた。


 私はずっと……

 あなたと真の幸せの邪魔をして、二人の関係を粉々に壊してきたのに。


 どうしてそんな優しい顔で微笑んでいられるの?


 どうして……。


 どうして……………。


 あなたが淑女のように微笑んだとしても、私は真をあなたに渡したりはしない。


 だってそうでしょう。

 そんなふしだらなこと、世間が許しても私は許さないよ。

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