166

 人気商品である理由に納得し、値札を見ると……。


「二万五千円……」


 あまりの高さに、私は目を疑った。


「本日は開店記念セールで三割引とさせていただいております。子供服にしては少しお高いですけど、そのぶん生地は丈夫で、洗濯機で丸洗いしても型崩れはしませんし、お出掛け用のお洒落着にもなります」


「でもお高いですね。私の主人は塾の講師だから収入も限られてて、これは贅沢だわ」


 塾の講師と告げても、彼女の表情は変わらなかった。


「では、こちらは如何ですか?赤いパーカーで、男女兼用になってます」


「これ、いいですね」


「はい。どうぞお手にとって見て下さい」


 赤のパーカー。ポケットやファスナーにブルーのラインでアクセントが施されている。シンプルな作りだが、飾りボタンは黄色や緑の星の形になっていて見た目も可愛い。


 これなら翼も愁も着れる。


「こちらは、おいくらですか?」


「定価五千五百円の三割引きとなります」


 これなら、今月の生活費から買えないことはない。


「これにします。すみません。領収書をいただけますか?」


「はい、ありがとうございます。領収書のお名前はどういたしましょうか?」


「西本でお願いします」


「西本様、ご主人様は塾の講師をされているとか……。もしかして、西本真さんの奥様ですか?」


「ええ、主人をご存知ですか?」


「はい、以前娘の家庭教師をして頂いたことがあるので、その節は大変お世話になりました」


 彼女は極めて冷静だ。

 その冷静さに私は苛立ちを感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る