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「そんな男最低だよ。好きな女性がいるくせに、他の女性と一緒になったんだろう。女子高生の気持ちを弄ぶなんて、大人のすることじゃない。俺がガツンと言ってやるのに」
「一生無理だね」
クスクス笑ってる空。相変わらず口は悪い。
でも俺は、嬉しかった。空が大人に振り回されることなく、自分を理解してくれる相手と巡り逢えたことが嬉しかった。
背伸びをしない等身大の恋を、空にはして欲しかったから。
「同世代のイケメンモデルにしろ。性格もよくて空のことを好きだと言ってくれるなら、空のことをきっと大切にしてくれるよ」
「本当に真ちゃんはバカだね」
空はなぜか口を尖らせ、俺を睨み付けている。
「はっ?」
「そんなだから、礼を捕まえることができないんだよ」
「……はぁ?もう……昔の話だよ」
礼さんを捕まえることができたなら、俺達の未来は違ったのかな。
「まっ、二人とも幸せならいいや」
「それで、空の第一志望はどこなんだ?」
「国立大学に決まってるだろ。あたしの学力で他にどこがあるんだよ」
「国立大学か……」
「でも、選抜Sクラスの講師が真ちゃんだなんて、現役合格はヤバいかな?塾を変えた方がよくない?この進学塾の代表取締役社長って、名字が西本なんだけど、まさか真ちゃんの父親ってことないよね?」
「選抜Sクラスの講師が俺で悪かったな。この塾の取締役社長は伯父だよ。伯父は東大卒だ。この進学塾の国公立大学への合格率は高いんだよ。優秀な講師陣が揃ってるからな。俺含めて」
「真ちゃんが優秀ねぇ。きっと塾のカリキュラムが優れてるんだね。夏期講習を受けて継続するかどうか考えるよ」
空は俺を見つめ嫌味っぽく笑った。
「そうだよな。空の実力ならきっと現役合格するよ」
「だよね、真ちゃん」
空は嬉しそうに頬を緩めて笑った。無邪気な十八歳の笑顔。
「空にまた逢えてよかったよ」
「やっぱり?あたしに惚れた?」
「惚れないよ。俺は二児の父親なんだよ。女子高生に惚れたら即逮捕されるだろ」
「確かに」
空は俺の弁当を勝手に開けて声をあげた。
「真ちゃん、きゃはは!パンダが「スキ」って言ってるよ。ほら、見なよ。「スキ」だってさ。奥さんとラブラブなんだね」
「わ、わ、見るな、触るな、食べるな!」
父親を亡くしたばかりなのに、明るく振る舞う空。その心中を察すると目頭が熱くなった。
――それぞれが藻掻き苦しんだ数年間。
俺達の傷付いた心も、時の流れが優しく癒してくれた。
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