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 俺は試験中、生徒の身分証明書の顔写真を確認しながら、机と机の間を歩く。


 みんな真面目な高校生だ。

 俺にもこんな時代があったな。


 無我夢中で勉強に打ち込んだ日々。


 最後列の席に、ブラウンの髪色をした女子高生がいた。この進学塾では異質な感じがしたが、俺は何故かその容姿に懐かしさを感じた。


 彼女の机の上に置かれた高校の生徒手帳。


【ルミナ聖心女学院大学附属高校。本宮空】


 ――そ、空……!?


 俺は試験中だということを一瞬忘れ、彼女に見入った。


 ――本当に空なのか……!?


 空に逢うのは、大阪に行く空を東京駅で見送って以来だった。それっきり空に逢うことも、電話をすることもなかった。


 中学生の時に『メイクはするな』と注意したのに、高校生の空はバッチリメイクをしている。


 俺の教えは、何の役にも立たなかったのか。


 高校生のくせにメイクをして、髪はブラウンに染めて、耳にはピアスだなんて、俺に喧嘩を打っているとしか思えない。


 でも、どうして空が東京に……?


 本宮氏との確執が解消されたのか?

 あの家に戻り一緒に住んでいるのかな?

 それとも……礼さんと?


 空はガン見している俺の視線に気付き、問題を解きながらチラッと俺を見上げた。


 数年振りに逢う空は、見違えるほどに大人びて、美しい女性に成長していた。実の親子ではないのに、礼さんとどことなく顔立ちが似ている。


「はい、先生出来たよ」


 解答時間六十分のテストをわずか二十分で終わらせると、空は俺に解答用紙を差し出した。

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