156
「礼?どうしたの?大丈夫?」
「……ごめんなさい。パパのことを思い出しちゃった」
私は涙の滲んだ目を指で拭う。
「泣き虫だね。礼は」
空が笑いながら、私を見つめた。
――真君は……
まだあのアパートに住んでいるのだろうか?
私が……逢いに行ったら……
真君は……私をどう思うのだろう?
あんな酷い別れ方をしたのに、いまさら逢いたいなんて都合がよすぎるよね。
――『もう終わりにしましょう。お互い大人なんだから、しつこくしないで。さようなら』
バカだね……私。
壊れた時計の針は、二度と時を刻むことはできないのに。
◇
翌朝、私は午前五時に起きキッチンに立つ。食事だけは空のために用意したかったから。
朝食と一緒に昼食も作った。
空のために通いの家政婦さんを再び雇い、夕食と家事全般を依頼した。
空と二人で朝食をとり、仏壇に手を合わせる。
「空、行ってきます。お昼ご飯は冷蔵庫に入れてあるから、外出するなら戸締まりお願いね。午後から家政婦さんがくるから、スペアキーは渡してあるから、知らない人が家にいても驚かないで、それと虐めないで」
「はいはい。礼、あたしはもう十八歳なんだよ。そんなことしないよ。早く行かないと社長が遅刻したらシャレにならないよ。行ってらっしゃい」
空は玄関まで私の背中を押しやる。家族がいることが、こんなにも嬉しく感じるなんて。
空の存在が、私の心の空白部分を優しく埋めてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます