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「礼?どうしたの?大丈夫?」


「……ごめんなさい。パパのことを思い出しちゃった」


 私は涙の滲んだ目を指で拭う。


「泣き虫だね。礼は」


 空が笑いながら、私を見つめた。


 ――真君は……


 まだあのアパートに住んでいるのだろうか?


 私が……逢いに行ったら……


 真君は……私をどう思うのだろう?


 あんな酷い別れ方をしたのに、いまさら逢いたいなんて都合がよすぎるよね。


 ――『もう終わりにしましょう。お互い大人なんだから、しつこくしないで。さようなら』


 バカだね……私。

 壊れた時計の針は、二度と時を刻むことはできないのに。


 ◇


 翌朝、私は午前五時に起きキッチンに立つ。食事だけは空のために用意したかったから。


 朝食と一緒に昼食も作った。


 空のために通いの家政婦さんを再び雇い、夕食と家事全般を依頼した。


 空と二人で朝食をとり、仏壇に手を合わせる。


「空、行ってきます。お昼ご飯は冷蔵庫に入れてあるから、外出するなら戸締まりお願いね。午後から家政婦さんがくるから、スペアキーは渡してあるから、知らない人が家にいても驚かないで、それと虐めないで」


「はいはい。礼、あたしはもう十八歳なんだよ。そんなことしないよ。早く行かないと社長が遅刻したらシャレにならないよ。行ってらっしゃい」


 空は玄関まで私の背中を押しやる。家族がいることが、こんなにも嬉しく感じるなんて。


 空の存在が、私の心の空白部分を優しく埋めてくれた。

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