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 ――七月後半――


 空は高校三年の一学期を大阪の高校で過ごし、ルミナ聖心女学院大学附属高校への転入手続きも済ませ、夏休みに帰京した。


 本宮が亡くなり、家政婦も看護師も雇わず、一人きりで寂しく暮らしていた家の中が、明かりが灯ったように賑やかになった。空と仏壇の前で手を合わせ、本宮に帰宅したことを報告する。


 ――あなた……


 今日、空が家に戻って来ましたよ。


 三人で暮らしましょうね。


「空、私は明日も仕事だから、お昼御飯は用意して冷蔵庫に入れておくからね」


「ありがとう。でもいいよ。夏休みだし適当に食べるから。礼は無理しないで。あたしも料理くらいできるんだよ。おばあちゃんにビシビシ鍛えられたからね。それに明日から夏期講習に行くし、あたしさ、国立大学を受験するから。経営学をしっかり学ぶからさ」


「国立大学!?凄い。夏期講習ってどこの塾に行くの?」


「春希や鈴と同じ塾だよ。早速で悪いけど、入塾金とか月謝とか色々いるから、ごめんね」


「わかったわ。お金の心配はしなくていいからね。空は自分のやりたいことをやりなさい。悔いが残らない人生を送って欲しいの」


「うん。ねぇ……礼……」


「なに?」


「もしも好きな人が出来たら、あたしに遠慮しないで。礼も、礼の人生を悔いのないように生きて欲しいんだ」


「ありがとう。もうおばさんだもの、そんな人いないわよ」


 ――好きな人……。


 真君の顔が、ぼんやりと脳裏に浮かんだ。


 ――【礼、今までありがとう。君は自由に生きなさい。私の介護で君の残りの人生を狂わせたくない。】


 本宮と最後に交わした言葉を、ふと思い出した。


 ――【君に感謝している。君を愛している。だからこそ、自由にしたい。】


 自由に……。


 本宮は真君のことを……言っていたのだろうか。


 本宮の介護に疲れ、ずっと心に鍵をかけてきた。


 この鍵を……


 開けても……いいの?


 本宮が亡くなり、まだ四十九日も済ませていないのに、あなたの前で私は不謹慎だよね。


 ふと見上げた遺影。


 ――【今までありがとう】


 本宮の最期の声が聞こえた気がした。

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