154
◇
本宮が突然亡くなり、空は父親の死を暫く受け入れることができなかった。
棺の中で静かに眠る父親を見て、友人の真衣さんの死を思い出したに違いない。
お通夜には大阪の祖母や本宮の親戚も駆け付け、空の学校や今後の養育をどうするか話し合った。
空と血の繋がりのない私。祖母はロサンゼルス在住の実母が引き取るべきだと私に主張した。空ももしかしたら、それを願っているのかもしれない。
でも私は……
その申し出を黙って受け入れることはできなかった。
「空と私は血の繋がりはありませんが、私は空のことを実の娘だと思っています。私が空を本宮corporationの後継者として立派に育てますから、どうか、あたたかく見守っていて下さい」
「そやかて、礼さんはまだ三十代や。再婚かていずれするやろ」
「おばあちゃん、礼はあたしのママなんだよ。だから、あたしはこの家で礼と暮らす。おばあちゃん今までありがとうございました」
空の口から『礼はあたしのママなんだよ』という言葉が飛び出し、涙が滲んだ。
「空はほんまに頑固やな。清華が高校生の頃にそっくりや。空、おばあちゃんのとこでずっと暮らしてもええねんで。本当に東京でええんやね?」
祖母は何度も空に念を押した。
本宮の親戚に異論はなく、空を私が養育することに賛成してくれた。
「おばあちゃん、これでええねん」
空は下手な大阪弁で祖母に答え、にっこり笑った。
――通夜は身内だけで終え、葬儀は社葬とした。会社関係者や政財界からも弔問客が多数訪れ、生前の本宮の存在がいかに大きなものだったのか改めて思い知った。
空は一週間東京に滞在し、初七日を終え一旦大阪に戻った。
転校までの残り少ない大阪での高校生活を友人と過ごす。それは空にとって希望に満ちた別れになるのだろうか。それとも辛い別れになるのだろうか。
人は生涯どれだけの人と巡り合い、どれだけの人と別れを惜しむのだろう。
生きていれば……
必ずまたいつか逢える……。
――そうだよね、真君……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます