153

 ――慶星大学附属病院――


「あなた、あなた……」


 私の悲鳴にも似た叫び声が、聞こえていますか?


 お願い……。

 聞こえていたら、もう一度瞼を開けて……。


 もう一度……私の手をギュッと握って……。


「……パパ」


 東京駅から真っ直ぐ慶星大学附属病院に駆け付けた空は、処置室の入り口で立ち竦んでいた。


 本宮は再び脳出血を起こし、病院に運ばれたと同時に急変した。


 心電図は波形ではなく直線を示す。


 ――ピ―――――…………


 その冷たい音に、私は顔を上げて振り返る。


「……そ……ら……」


「あたし……パパと一言も話してないよ……。なんで……勝手に逝ってんだよ……」


「空……」


 私は空を抱き締めて号泣した。


「なんで……」


 空は本宮の手に触れた。


「パパ、なんで死んだんだよ!パパ!あたし……パパに逢わせたい人がいるんだよ!なんで勝手に死んでんだよ……。わぁぁー……パパー……」


 空は取り乱して本宮に縋りついた。傍にいた男性が空の肩を抱き締めた。


「あたしは……パパの最後を看取ることが出来なかった。パパとちゃんと向き合うことが出来なかった……」


「空……」


「もっと……話がしたかったのに……。だから……東京に戻るって決めたのに……。なんでだよ」


 私は泣きながら、本宮の顔に優しく触れた。


「あなた……空のお友達ですよ。空にも信頼できるお友達ができたのよ。あなた……もう頑張らなくてもいいのよ……。ゆっくりやすんで下さいね」


 自分本位で冷たい人間だと思っていた本宮の手は、こんなにもあたたかい。


 本宮は最愛の娘と最期に逢うこともなく、壮絶な生涯の幕を閉じた。

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