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「……れ……い」


 不自由な言葉を発したあと、本宮は再びパソコンを打ち始めた。数分かけて一文字一文字丁寧に入力していく。


【礼、私のことは心配無用だ。この家には看護師も家政婦もいる。体は不自由だが、まだまだ頭はしっかりしている。会社経営にも助言できる。】


「そうですね。頼りにしています」


【礼、今までありがとう。君は自由に生きなさい。私の介護で君の残りの人生を狂わせたくない。】


「あなた……なにを言ってるの?」


【君に感謝している。君を愛している。だからこそ、自由にしたい。】


「あなた……ばかなことを言わないで。私はここにいるわ。ずっとあなたの傍にいるから……」


 本宮は私を見つめ、首を左右に振った。


【もう十分だよ。今までありがとう】


「……あなた」


【礼……今まで君に酷いことばかりしてすまなか……】


 そこまで打ちかけ、本宮の指が止まった。


「あなた?」


 本宮は体を痙攣させ、前方につんのめるように倒れた。


「あなた!しっかりして!あなたー……!」


 私の悲鳴に隣室にいた看護師が駆けつける。

 看護師はすぐに脈をとり、血圧を測った。本宮をベッドに横たわらせると、すぐに救急車を呼んだ。


「奥様、旦那様は脳出血が疑われます」


「脳出血……」


 脳出血やくも膜下出血の再発は、命の危険に繋がると、医師から宣告されていた。


 回復の兆しが見えていたのに、一気に奈落の底に突き落とされた気がして、体の震えが止まらなかった。

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