真side

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 ――七月になり、マンションと隣接する公園の木々から、蝉の鳴き声がする。少し動いただけで汗ばむ茹だるような暑さの中、俺は車で千葉に向かった。


 奈央の実家に着くと、奈央と翼はもう支度をすませ俺を待っていた。


「ごめん。遅くなって」


「ううん、迎えに来てくれてありがとう。翼も待ってるよ」


 初めて実家を訪れ二週間以上が経過し、翼の頬は少しふっくらしたように思えた。


「翼、迎えに来たよ」


 俺は奈央から翼を抱き上げる。翼は円らな瞳で俺の目をジッと見つめた。


「見えてるのかな。翼、パパだよ」


 慣れない手つきで翼をあやしている俺を、奈央は頬を緩め嬉しそうに見つめていた。


 奈央の実家で昼食をご馳走になり、奈央と翼を車の後部座席に乗せた。チャイルドシートも翼のために購入した。


 奈央の母親は名残惜しそうに、翼の髪を撫で小さな手に触れた。


「バイバイ、翼ちゃん。ばあばのところにまた遊びにきてね」


「お義母さん、大変お世話になりました。是非、こちらにも遊びに来て下さいね」


「ありがとう。奈央と翼のことを宜しくお願いしますね。私の大切な娘と可愛い孫ですから。二度と泣かせないと約束して下さい」


「はい」


 俺は運転席に乗り込みエンジンをかけた。


 今日から、俺達の新しい生活が始まるんだ。後部座席に乗っている小さな命に、責任の重大さを実感する。


 ――もう過去を振り返らない。


 この子は自分の命に代えても守り抜く。

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