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真にはまだ好きな人がいる。
その人のことが、忘れられないでいる。
どんなに誤魔化しても、私には真の気持ちがわかるんだよ。
でも……それでもいいと思ったんだ。
真の心を、今でも彼女の存在が占めていたとしても、真が『翼の父親になりたい』と言ってくれたことに、噓偽りはない。
その言葉が真実なら……
私の愛で、あなたの心から彼女を消し去ってみせる。
◇
仕事から帰宅した母に、真は誠心誠意謝罪し、自分の想いを語った。頑なだった母が、真を受け入れてくれた。
女手ひとつで子供を育てる苦労を、母は身をもって経験している。娘の私に同じ想いをさせたくないと思っていたのだろう。
その夜、真は私の実家に泊まった。
ベビーベッドの中でスヤスヤ眠る翼を、何時間も見つめていた。
夢にまで見た光景……。
私は、あなたを信じていたよ。
――翌日、真は有給休暇を取り塾を休んだ。
いずれは伯父さんの後継者となり、進学塾の経営を任されることになっている。そうなれば生活も安定するだろう。
真は古いアパートを出て、広いマンションに転居すると話した。タイミングよくマンションを探していたことに、一抹の不安はあったが、やっと取り戻した真を手放したりはしない。
私達は二人で区役所に出向き、婚姻届けと出生届けを提出した。
私達はその日、夫婦となり家族になった。
もうそれだけで、十分幸せだった。
望むものは全て手に入れた。
もう何も望まない。これ以上望むと幸せが壊れてしまいそうだから。
でも、忘れないで。
あなたの妻は、私だってことを。
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