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――その日の夜、俺は近所のスーパーで仕事をしている奈央の母親が帰宅するまで、実家で待っていた。
奈央の母親は、俺の突然の訪問に驚いていた。
俺は奈央の母親の前で、畳に額を擦り付け自分の不誠実さを何度も詫びた。
「はじめまして。西本真と申します。この度は申し訳ありませんでした」
「それで、今さら私どもに何の用ですか?娘を未婚の母にしておいて、認知するのは当然でしょう。それとも、認知はしたくないと?」
「いえ、そうではありません。奈央さんと結婚させて下さい。翼を二人で育てたいんです」
奈央の母親は翼を抱き上げ、俺を真っ直ぐ見つめた。どんなに罵倒されても、蔑まれても、引き下がるつもりはなかった。
許してもらえるまで、何日でも通い詰めるつもりだった。
奈央の母親は畳の上に正座し、泣き出した翼をあやした。
「翼……よかったね。パパが迎えに来てくれたんだよ」
奈央の母親は翼を抱きしめ涙ぐんだ。
「……お母さん、奈央さんとの結婚を許して下さるのですか?」
「あなたが来なければ、翼を連れてご実家に乗り込むつもりでした。こんなに可愛い子供を、私生子にするわけにはいかないでしょう」
「……ありがとうございます。ありがとうございます」
「私こそ……キツいことを言ってごめんなさい。来てくれてありがとう……」
奈央と翼は産後一ヶ月は実家で過ごし、俺は七月十日以降の日曜日に、二人を迎えに来ることに決めた。
その日、奈央の実家に泊めてもらった俺は、翌朝区役所に出向き婚姻届けと出生届を提出した。
これでいいんだ……。
俺は奈央と翼と三人で生きていく。
翼の父親になりたいと思ったのは事実だから。
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