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 空は首を横に振る。


「この間電話した時に話そうとしたけど、礼もいなかったから話せなかった。あたしね、母に『どうしてあたしを捨てたのか』って、聞いたんだ。母はとても驚き『ママはあなたを引き取りたかった。でもパパが親権を渡してくれなかった』ってそう言った。パパから聞いていたことと違っていたんだ」


「……そう」


「母があたしにこう話してくれた。『パパは親の愛情を知らないのよ。パパはお祖母様の子供ではないの。お祖母様に子供が出来なくて、お祖父様が他の女性に生ませた子供なのよ。赤ちゃんの時に引き取られ、お祖母様に厳しく育てられたのよ』って……」


「パパがお祖母様の実子ではなかったの?それ本当?」


「躾と称して、体罰も受けていたらしい」


「パパがお祖母様から体罰を……」


 私はその事実に衝撃を覚えた。


「母はこうも言った。『パパは優しい人だったのよ。ロスに行って、仕事が思うようにいかなくて、あの頃荒れていた。そんな時に真凛のパパに出逢ってしまった』って……」


「……そんなことまで話してくれたの」


「母は『パパが暴力を振るい始めたのは、ママのせいよ。ママが他の人を好きになったから……。ママはパパと別れたことは後悔していない。だけどあなたを手放したことは深く後悔している』って。……今さらそんなことを言われても、あたし……何も答えられなかった」


「パパは空を愛していたから、あなたの親権を放棄しなかったのよ。あなたが産まれた時、『自分に家族が出来た』って泣いて喜んだと聞いたことがあるわ。その意味がやっとわかった気がする……」


「でも、あたしはずっと一人だった。五歳から……ずっと一人ぼっちだった」


 空は自分の感情の全てを清華さんにぶつけた。

 十年間の寂しさを全てを、洗い浚いぶつけたんだ。

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