124

 お願い……


 死なないで……。


 空のためにも……


 死なないで……。


 ――深夜から始まった緊急手術は八時間以上を要した。早朝本宮の手術は無事に終わり、私は医師から説明を聞く。


「手術は無事に終わり一命は取り留めましたが、後遺症が残ると思って下さい。二~三日は、脳浮腫、肺炎等の感染症の恐れもあります。後遺症としては半身不随、言語障害、一生寝たきりとなる可能性もあります」


「……半身不随、まさか……」


「先ずは二~三日が山だと思って下さい。暫くは麻酔で眠らせたまま治療を続けます。ICU《集中治療室》は完全看護ですが、容態が急変する可能性もあります。今夜は帰宅されますか?それとも仮眠室で過ごされますか?」


 医師の言葉に、私は呆然とする……。


「仮眠室をお願いします」


「わかりました。何かあればすぐに知らせますので、ゆっくり休んで下さい」


「……先生、ありがとうございました。主人を助けて下さい。お願いします」


 私は医師に深々と頭を下げ、ICUを出て携帯電話を取り出し、大阪の空に電話を掛けた。


『もしもし礼!元気!いつ日本に戻ったの?』


「空……」


 明るい空の声に、少しだけ気持ちが救われた気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る