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「空のことを持ち出すなんて卑怯だよ。あれは向こうが先に礼さんに暴力を振るったから、空が……」


「でもそれを証明するものはない。処置をしてくれた外科医も本宮の友人だし、本宮と口裏を合わせる可能性もあるわ。私は空を巻き込みたくないの……」


 真君は不安がる私の手を、そっと握り締めた。

 それだけで気持ちは少し安らいだ。


 ◇


 その後も私は連日ホテルに泊まった。真君は私を心配して毎日会いに来てくれたが、写真に撮られることを避けるために、ホテルの部屋ではなくラウンジやレストランで会うようにした。


 私は友人に弁護士を紹介してもらい、離婚調停に備えた。


 一週間後、本宮から突然、MILKYに電話がかかって来た。


『礼か?君も弁護士を雇ったんだな』


「はい」


『私に勝てると思っているのか。実は先日、空から自宅に電話があった』


「空から……ですか?」


『ああ、大阪で元気に暮らしているそうだ。空には、君は海外出張だと言っておいた。空の元家庭教師と、義理の母親が不倫しているなんて、そんなハレンチなことは言えないからな』


「私と西本さんは不倫なんて……」


『車でキスをしていた。私は浮気を目撃した。言い逃れはできない。証拠の画像もある。離婚調停をすれば君が不利になるのは明らかだ。そこで君に相談がある。離婚調停にすると、空にも悪影響がでるだろう。せっかく落ち着きを取り戻した空を、そんな目に合わせていいのか?双方の弁護士抜きで、君と直接話し合いたい』

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