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その夜、真君は私をベッドに寝かせ、自分は床に布団を敷いて寝た。この状況下で、好き合っている男女がいて、体の関係を持つことは自然の流れだ。
でも真君は私を強引に求めることはしなかった。
真君は布団からそっと手を伸ばし、不安な私の右手を握り締めてくれた。その大きな手のぬくもりに愛しさを感じた。
「礼さんが眠りにつくまで、こうしてていい?」
「……うん」
勢いで本宮の家を飛び出したものの、真君とそうなることにはまだ心の準備ができていなかった私は、真君の優しさが身に沁みた。
手を繋いだまま、私達はそれ以上言葉を交わさなかった。言葉は交わさなくても、心は通じ合っていた。
◇
翌朝、カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝の光で私は目覚めた。
ここは……
真君のアパート……。
昨夜のことは夢ではなかった。
「礼さん、おはよう。眠れた?」
目を覚ました私の額に、真君がキスをした。
「大丈夫?少しは落ち着いた?」
「……うん、大丈夫。昨日は無理を言ってごめんなさい。私……迷惑だったでしょう。このアパートで彼女と暮らしているんだよね?」
真君は私を抱き締めると首を横に振った。
「彼女とは……別れたんだ。だからここにいていいよ。MILKYもここから出勤すればいい。就職もしたし、新しいマンションを探す予定だから」
「そうもいかないわ。あの家を出たことを空に連絡しないと」
「そうだよね。空も一緒に暮らせるくらい広いマンションを探すよ」
「都内でそんな広さのマンションを借りたら、家賃だけで真君の給料飛んじゃうよ」
「大丈夫だよ。俺、バリバリ働くから。塾の給料だけで生活できなければ、深夜もバイトする。礼さんはMILKYの代表取締役社長を辞めてもいい」
真君の言葉に、頭が下がる。
でもMILKYは私の大切な会社だ。そう簡単には手放せない。
「真君、無理しないでね。MILKYは私の会社だから、本宮には関係ないのよ。それに……離婚が成立するまでは一緒には暮らせない。空に顔向けできないことはしたくないの。私、マンションを探すわ」
「そうだよ……ね。俺、非常識なことばかり言ってごめん」
「こちらこそごめんなさい。私、区役所で離婚届けをもらってくるわ。記入して本宮に郵送します」
「ご主人がすんなりサインするかな」
「無理かもしれないわ。弁護士も探してみる。真君とは……離婚が成立したら、交際したいと思ってる。それまで待ってくれますか?」
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