113
「もう遅いわ。私は……もうあなたを愛せない。ごめんなさい……一緒に暮らせない」
「礼!こんなことが許されると思うなよ!あの男がどうなってもいいのか!離婚調停するなら、お前たちの不倫も明るみに出す」
本宮は力の限り私を抱き締めたが、私は本宮の手を振り払い、家を飛び出した。
「礼!待ちなさい!礼!」
本宮の怒鳴り声を聞きながら、無我夢中で最寄り駅まで走った。正気を失った本宮が追って来るのではないかと、恐怖で足が震えた。
駅前のカフェに飛び込み、震える指で真君に電話をかけた。
『礼さん……?』
真君の声に、涙が溢れた。
「真君……たすけて……」
真君に初めて助けを求めた。
「真君……私を……たすけて……」
『今すぐ戻る。家にいるのか?違うなら、居場所を教えて』
真君にカフェにいることを告げ、携帯電話を握り締めたまま私は泣いた。
これから先のことなんて、何も考えられなかった。
やっぱり……無理だよ。
空がいなくなった今、私の心は嘘はつけない。
毎日、本宮の暴力に怯えて暮らすなんて耐えられない。本宮が改心したとは信じがたい。
――『あたしは大丈夫だから、この家を出て行ってもいいよ。弁護士立てて協議離婚しなよ』
空の声が、鼓膜に蘇る。
――『我慢しなくていいんだ。礼はまだ若いし、自分を大切にしなよ』
空……ごめんね。
『離れていても、空の母親だから』って、さっき東京駅で話したばかりなのに。
空はこんな私を『ママ』って呼んでくれたのに。
本宮が本当に改心し、真剣に私とやり直すつもりだったとしたら……私はとんでもないことをしているのではないだろうか。
真君の到着を待ちながら、様々なことが脳裏に浮かんでは消える。
二十分後、カフェの駐車場に真君の車が停まる。車から慌てて降りた真君は、カフェに飛び込み私の傍に走り寄った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます