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「もう遅いわ。私は……もうあなたを愛せない。ごめんなさい……一緒に暮らせない」


「礼!こんなことが許されると思うなよ!あの男がどうなってもいいのか!離婚調停するなら、お前たちの不倫も明るみに出す」


 本宮は力の限り私を抱き締めたが、私は本宮の手を振り払い、家を飛び出した。


「礼!待ちなさい!礼!」


 本宮の怒鳴り声を聞きながら、無我夢中で最寄り駅まで走った。正気を失った本宮が追って来るのではないかと、恐怖で足が震えた。


 駅前のカフェに飛び込み、震える指で真君に電話をかけた。


『礼さん……?』


 真君の声に、涙が溢れた。


「真君……たすけて……」


 真君に初めて助けを求めた。


「真君……私を……たすけて……」


『今すぐ戻る。家にいるのか?違うなら、居場所を教えて』


 真君にカフェにいることを告げ、携帯電話を握り締めたまま私は泣いた。


 これから先のことなんて、何も考えられなかった。


 やっぱり……無理だよ。

 空がいなくなった今、私の心は嘘はつけない。


 毎日、本宮の暴力に怯えて暮らすなんて耐えられない。本宮が改心したとは信じがたい。


 ――『あたしは大丈夫だから、この家を出て行ってもいいよ。弁護士立てて協議離婚しなよ』


 空の声が、鼓膜に蘇る。


 ――『我慢しなくていいんだ。礼はまだ若いし、自分を大切にしなよ』


 空……ごめんね。


『離れていても、空の母親だから』って、さっき東京駅で話したばかりなのに。


 空はこんな私を『ママ』って呼んでくれたのに。


 本宮が本当に改心し、真剣に私とやり直すつもりだったとしたら……私はとんでもないことをしているのではないだろうか。


 真君の到着を待ちながら、様々なことが脳裏に浮かんでは消える。


 二十分後、カフェの駐車場に真君の車が停まる。車から慌てて降りた真君は、カフェに飛び込み私の傍に走り寄った。

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