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真君が車を発進させた後、私は玄関ドアに鍵を差し込む。
「……まさか」
ドアは開いていた。
顔は青ざめ、血の気が引いていくのがわかる。
ドアを開けると玄関に本宮が立っていた。
その顔は怒りに満ちていた。
咄嗟に、真君とのキスを見られてしまったのだと直感した。
「……あなた……車は?」
「今日はタクシーで帰った。東京駅まで出向いたが、空には会わなかった。空は無事に大阪に出発したようだな」
東京駅まで出向いた……?
まさか、新幹線のホームからずっと私達を見ていたの?
「……東京駅に来られていたなら、空に会って下さればよかったのに」
「私と会えば空が動揺するだろう。それに近寄りがたい雰囲気だったからな」
近寄りがたい雰囲気……。
私は本宮と視線を合わせることが出来ず、ハイヒールを脱ぎ家に上がった。
「礼、待ちなさい」
本宮の低くて掠れた声に、私の体は緊張から強張る。
「お前が空を大阪に追いやったのは、自分が男と浮気をするためか!」
やはり……
本宮は一部始終を見ていたのだ。
「違います。あなた、私と離婚して下さい。お願いします。空は私が引き取ります。自分の子としてちゃんと育てます。だから……私と離婚して下さい。あなたが別れて下さらないなら、離婚調停をするわ」
「ふざけるな。俺は女と別れてここに戻ったんだ。女と暮らしたマンションも引き払った。お前達と真剣にやり直すために、二度と手を上げないと誓った……。それなのに……お前は若い男と浮気をしていた。自分の不貞を棚に上げ、離婚調停だと!そんなことは認めないからな!」
本宮の体は怒りに震えていたが、私の胸ぐらを掴んだまま殴ることはなかった。
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