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「……無理だよ。その気持ちだけで十分だよ」


「……どうして?」


「きっと……本宮は別れてくれないわ。本宮は気性が激しくて、何をするかわからない。それは真君もわかっているでしょう」


 礼さんは人妻だ……。


 それは紛れもない事実。


 俺は礼さんの家の前で、車を停める。

 礼さんは車を降りる前に、俺に視線を向けた。


「真君、今までありがとう。私ね、空の精神状態が落ち着いたら、また引き取るつもりなのよ。血は繋がっていなくても、私は空の母親だと思ってるから」


「それはご主人と別れないってことですか?あんなに酷いことをされても、傷付けられても別れないってことですか?」


 礼さんは言葉に詰まり俯いた。

 俺は礼さんの腕を掴み、体を引き寄せ抱き締めた。


「……俺はずっと……礼さんのことを……」


「……真君。いけないわ。私達は……」


 俺は礼さんの唇を、優しく塞いだ。


 礼さんを……愛している……。

 もうあの家に帰したくない。


 礼さんの手が俺の背中に回った。

 俺の手に自然と力が入る。


 想いが通じた歓びから、礼さんの体を強く抱き締めた。


 自分勝手な要求を満たすこの一時の抱擁が……礼さんをさらに苦しめることになるとは、思ってもいなかった。

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