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空は友人と別れを惜しんだあと、礼さんの前に立つ。
「空……元気でね……」
礼さんは空を抱き締めた。
「礼も元気でね。礼……本当にごめんね。怪我させて……本当にごめんなさい」
空は礼さんの腕の中で涙ぐむ。
「ばかね。これしきの傷、もう平気だよ。それに私は……離れていても、空の母親だから」
空が潤んだ瞳を礼さんに向けた。
「……ママ、今までありがとう」
「……マ、ママ!?」
礼さんの瞳も涙で潤む。
「ありがとう、空……。でも無理しないで。今まで通り礼でいいよ」
「空、また会おうな」
「うん。あたし、いい女になるからさ。真ちゃんが、あたしに惚れちゃうくらい『いい女』に。だから……礼、早く真ちゃんと一緒にならないと、あたしが取っちゃうからね」
「相変わらず、生意気だな。でも十五歳にしたら、空は十分いい女だよ」
「だろ?真ちゃん、あたしに惚れちゃダメだよ。遠距離恋愛なんか、してやらないから」
「はいはい。空、頑張れよ。困ったことがあればいつでも相談に乗るからな」
「真ちゃんは礼の相談に乗ってればいーの」
空は笑いながら、一人で新幹線に乗り込んだ。
「バイバイ、春希、鈴、またね。真ちゃん、礼を頼んだよ」
「……わかった。空、元気でな」
新幹線のドアが静かに閉まる。発車のベルと同時に、新幹線は一気に加速した。
十五歳の空は……
心に傷を負い、寂しさを抱えたまま俺達の前から去って行った。
大阪に住む祖母と、ロサンゼルスで暮らす実母が、空の心を癒してくれることを願った。
ホームに残された俺は……
シングルマザーになる決意をした奈央の姿を思い出し、苦しい思いで空を見送った。
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