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 一週間後、空は大阪で暮らす実母の祖母宅で暫く暮らすことになった。その知らせを受け、俺は東京駅まで見送りに行く。


 空の実母は今もロサンゼルスで暮らしていて、祖母を通じて『ロサンゼルスに留学しないか』と言ってくれたらしいが、空はそれを頑なに拒んだ。


 実母も五歳で手放した娘のことを、ずっと気にかけていたようで、再三、本宮氏に『空を引き取りたい』と申し出たらしいが、本宮氏に拒絶され面会もさせてもらえなかったらしい。


 空の実母は、娘を捨てて男に走ったのではなく、新しい生活が落ち着いたら娘を引き取るつもりだった。だがその想いは、本宮氏によりねじ曲げられ空に伝えられていた。


 本宮氏は先日のことがあり、暫く空を母方の祖母に預けることを渋々承諾したが、それには条件があり、『いずれは東京に戻り、本宮corporationの後継者になる』との約束を交わし、転校手続きも終え、空は大阪に引っ越すことになった。


 転居当日、東京駅の新幹線ホームには空の友人も見送りに来ていた。


「空、元気でね。せっかく高校生になったのに、めちゃめちゃ寂しいよ。何でだよ」


「ごめんね。春希、鈴、自分の気持ちの整理がついたら、必ず東京に戻るから」


「絶対だよ。あたし達待ってるからね」


「うん、約束だよ。二人で大阪に遊びに来てね。あたしも待ってるから」


 三人は泣きながら、名残惜しそうに互いの手を握り合った。

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