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「……れ…い…」


 空は床を赤く染めた血を見て、ガタガタと震えていた。


 俺は礼さんに駆け寄る。

 幸いナイフは礼さんの腕を切り付けたに留まっていた。


「空、何て事を!」


 本宮氏はネクタイを緩めて外すと、礼さんの傷口から五センチくらい上を縛った。


 浴室から真新しいタオルを数枚持ってくると、礼さんの傷口に当てた。


「傷は深くはないな」


 本宮氏はスーツのポケットから携帯電話を取り出す。


「もしもし夜分に申し訳ない、本宮だ。急患を見てくれないか。ナイフによる裂傷だ。傷は深くはないが、範囲は広く出血も多い。縫合が必要だ。ただ警察に通報はしないで欲しい。怪我人は私の妻だ。頼むよ」


 本宮氏は病院に連絡したあとタクシーを呼んだ。その手際の良さに驚いていると、その隙を突き泣いている空に平手打ちをした。


「空、自分の犯した罪がどういうことかわかるな。この程度の傷ですんだからよかったものの。一歩間違えたら、大変なことになってたんだぞ」


「本宮さん、空のしたことは間違っている。だけど、それはあなたが奥さんに暴力を振るうからだ!」


 俺は本宮氏に殴りかかった。

 俺の拳は本宮氏の頬に食い込み、唇に血が滲んだ。


 本宮氏は顔を歪ませ、鋭い眼光で俺を睨み付けた。


「本宮さん、わかりますか!殴られたら体も心も痛いんだよ!あなたから受けた暴力で、礼さんや空がどれほどの苦しみや痛みを感じていたかわかりますか」

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