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「パパ!やめてー!礼を離して!その手を……下ろして!」
空の手にはフルーツと一緒に置かれていた小さな果物ナイフが握られていた。
ナイフの刃先は、室内の照明に反射し鋭い光を放つ。
だが、ナイフを握る手は小刻みに震えていた。
空はその刃先を真っ直ぐ本宮氏に向けた。
「空、やめろ!」
俺は思わず叫ぶ。
「礼を離せ!これ以上、礼に手を出したらあたしが許さない!」
空の目には、涙が浮かんでいた。
「空、実の父親を刺すのか?空、お前は自分の人生にも、私の人生にも、世間に顔向けできないような汚点を残すつもりなのか。できもしないくせに、そんな危ない物は早く片付けなさい!礼、お前は空にどんな教育をしてきたんだ!お前に任せたことは失敗だったようだな!空は俺が引き取る!」
本宮氏はそう言い放つと拳を振り下ろした。
「やめろー!」
俺が本宮氏に飛び掛かるよりも先に、空の足が動いた……。
――空はナイフを強く握ったまま、本宮氏に突進した。
「やめなさい!空ー!」
ほんの……一瞬の出来事だった。
本宮氏に向けられた刃先は、本宮氏を咄嗟に庇った礼さんを傷付けた。
空の足元に、ナイフが落ちた。
その刃先は、赤い血に染まっていた。
礼さんの腕から滴り落ちる血……。
気丈に微笑む礼さんが、その場に崩れ落ちた。
「……礼さん!」
――全ての時間が……止まった気がした。
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