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「あの男は、お前の一体何なんだ。言ってみろ!」


 本宮氏の怒鳴り声が室内の中から響き、俺は再びドアを開く。


 本宮氏は振り返り、俺を睨み付けた。


「なんだ、まだいたのか!」


 本宮氏の足元には、礼さんが蹲くまっていた。その瞳は涙で潤んでいた。


「なんだ……その目は!お前も清華きよかと同じなのか!俺を裏切り若い男と逃げる気なのか!許さないぞ!俺を裏切ることは、金輪際許さないからな!」


 俺や空の目前で、本宮氏はさらに礼さんの胸ぐらを掴んだ。


「言ってみろ!あの男と浮気したのか!そうなんだろう!」


「空の前でやめて下さい。西本さんは……関係ありません」


 礼さんは本宮氏を宥めるように、俺との関係を否定する。


 本宮氏はすでに正気を失っていた。

 空の実母である清華さんの裏切り。若い男性社員と駆け落ちしたことが心の深い傷となり、清華さんの面影に似た礼さんに、清華さんに対する深い愛と、裏切られた憎しみを重ねていたに違いない。


 礼さんは清華さんの身代わり……。


 だから自分は愛人と同棲しているにも拘わらず、礼さんに執着し俺との関係を疑い、礼さんとの離婚は承諾しなかった。


 礼さんを人として扱っていない非情な態度に、怒りで体は震えている。


 本宮氏は礼さんの頭上で拳を振り上げた。

 俺が叫ぶ前に、空が悲鳴にも似た叫び声を上げた。

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