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 礼さんは表情を強張らせている。


「君はもう空の家庭教師を辞めたはずだぞ。なぜここで食事をしている。まるで、この家の家主のようだな」


「西本さんには空のことで大変お世話になったから、今夜は御礼と就職祝いを兼ねてお招きしたのよ」


「そうよ。西本先生のお蔭であたしは内部試験トップの成績で進学したんだ。西本先生がいなかったら、進学できなったかもしれない。これはあたしの進学祝いでもあるの。そうだ。パパも一緒に祝ってよ」


 場の空気を察し、空が口裏を合わす。

 その顔からはさっきまでの笑顔が完全に消えていた。


「空の進学祝い?そうだな。ならば、君には帰ってもらおう。家族水入らずで祝いたいからな」


 本宮氏は俺に鋭い視線を浴びせる。その瞳の奥は、激しい怒りから赤く燃えているかのように見えた。


 これ以上拗らせては危険だ……。


 本宮氏とのトラブルを恐れてか、礼さんは俺に目で合図をした。


「そうね。西本さんごめんなさい。せっかく来ていただいたけど、主人が帰宅したので今夜はもうお引き取り願えますか」


「はい、わかりました。本日はありがとうございました。ご馳走様でした」


「車の代行を呼びますね」


「はい。お願いします。俺……少し飲み過ぎました。酔いを冷ますために外で待ってます」


 大学を卒業して購入した中古の国産車。

 本宮氏の外車との差は歴然。


「……西本先生、ごめんなさい」


「空、今夜はありがとう」


 俺は本宮氏に一礼をして、ダイニングルームを出る。ドアを閉めた途端『ビシッ』という鈍い音が聞こえた。


 そして……

 ドスンと何かが倒れる……大きな音……。


「パパ!止めて!」


 そう叫ぶ空の声が、ドア越しに聞こえた。

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