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「男の、は、な、し」


「やだ。男だなんて、元カレなんでしょう」


「向こうが勝手に熱くなって、『別れるなら死ぬ』とか、脅すから嫌気がさしたんだよ」


「元カレにストーカーされてたの?怖い思いをしていたなら、相談してくれればよかったのに。警察に相談しようか?」


「そんなんじゃないよ。あたしの素顔と実年齢を聞いて逃げ出す男だからさ」


「やだ、メイクして歳を誤魔化したりしてないでしょうね。そんなのダメだよ」


 空は俺を見て、ペロッと舌を出す。

 礼さんは椅子に腰を落としポツリと呟いた。


「空はお母さんに似て美人だもんね」


「まぁね。でも礼はママに似てる」


「私が?」


「うん、雰囲気が似てる。顔立ちもどことなく似てる。だからパパは礼と離婚したくないんだよ。パパが昔、お酒に酔って言ったことがあるんだ。『ママのことを愛していたのに裏切られた』って……」


「パパが……?そう……そんなことを……」


「ねぇ、礼。あたしはもう高校生だよ。マンションで一人暮らしをしてもいい。もうグレたりしない。あたしは大丈夫だから、この家を出て行ってもいいよ。弁護士立てて協議離婚しなよ」


「……空」


「我慢しなくていいんだ。礼はまだ若いし、自分を大切にしなよ」


 空は大人びた口調で礼さんに語りかける。礼さんは、そんな空に優しい笑みを向けた。


「空、大人になったわね」


 この二人、義理の母娘なのに本当に信頼し合っているんだな。


「大体、真ちゃんがいけないんだよ」


「……はっ?俺?」


 突然、空は俺に責任転嫁した。


「いつまでもグズグズしていたら、あたしも困るんだよ。いい加減ハッキリしなよ!礼のことが好きなんだろ」


「な、な、何言い出すんだよ」


 俺は空の言葉に慌てている。礼さんも驚いて目を見開いた。


「……や、やだ。空……変なことを言わないで」


「二人とも惚けないでよ。礼だって真ちゃんのことを好きなくせに。二人を見ていたらわかるんだよ。だから……サッサと礼を連れて逃げなよ」


「……まったく、見当違いもいいところだ。俺と礼さんは空が考えてるような感情はない」


 俺は空に気持ちを見抜かれて、内心焦っていた。


 礼さんがこの俺を好きだなんてあり得ないよ。

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