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「今日は俺の就職祝いをしてくれるっていうから来たのに。貶したくて呼んだのか?」


「あはは、だってさ。想像つかないから。有名進学塾の教壇に真ちゃんが立ってるなんてさ。宿題忘れて立たされてる中坊みたいだろ」


「三十歳過ぎた大人を捕まえて中坊とは何だ。相変わらず口が減らないな」


「あっそうそう。真ちゃん、例の元カレなんだけどさ……」


「彼氏?フリーターのか?」


「えっ!?そ、空、彼氏がいたの!?しかも、フリーターって、まさか成人男性と交際していたの!?」


「やだな。礼、驚き過ぎだよ。あたしだって元カレくらいいる。元カレが別れてくれないから、真ちゃんの助言通り素顔で高校の制服着て行ったんだ」


 礼さんは「まあ」と、呆れ顔で配膳をしている。俺と空はソファーに座り話し込む。


「それで、大丈夫だったのか?嫌がらせされなかったか?」


「うん、念のために派出所の近くで待ち合わせして、友達も一緒にきてもらった。そしたら、傍に寄ってもあたしだって気がつかないんだ。女子高生三人に囲まれて逆ナンされたと思ってんの」


「クククッ……。気付かないなんて、ノーメイクで制服着ていたらムリもないよ」


「真ちゃん、笑うとこじゃないから」


 空はツンと唇を尖らせた。


「それで?」


「耳の傍で、『あたしだよ』って言ったら、ビックリして腰抜かす寸前だったよ。『お、お前、幾つだよ』って、派出所の警察官をチラチラ見ながら、急にアタフタしてさ」


「クククッ……。そうだろうな」


「『今、十五歳だよ。付き合ってた時は中学生だった。交際を強要されてるって、警察官に訴えようかな』って言ったら、顔面蒼白になって即行逃げた。『二度と死ぬなんて脅すんじゃないよ』って、怒鳴ったらスッキリした」


「そこまでしなくても。でも、ちゃんと別れられたならよかった。もう大人とは付き合うな。男は狼なんだから、何するかわからないよ。あれ、俺も大人だよな。ヤバい、墓穴掘ったかな」


 その場の空気を変えようと話しをすり替えたが、空は頬を赤らめ俯いた。


「真ちゃんは……違うよ」


「なぁに?何の話なの?」


 ダイニングテーブルに配膳し終えた礼さんが、空の顔を覗き込む。

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