97
「今日は俺の就職祝いをしてくれるっていうから来たのに。貶したくて呼んだのか?」
「あはは、だってさ。想像つかないから。有名進学塾の教壇に真ちゃんが立ってるなんてさ。宿題忘れて立たされてる中坊みたいだろ」
「三十歳過ぎた大人を捕まえて中坊とは何だ。相変わらず口が減らないな」
「あっそうそう。真ちゃん、例の元カレなんだけどさ……」
「彼氏?フリーターのか?」
「えっ!?そ、空、彼氏がいたの!?しかも、フリーターって、まさか成人男性と交際していたの!?」
「やだな。礼、驚き過ぎだよ。あたしだって元カレくらいいる。元カレが別れてくれないから、真ちゃんの助言通り素顔で高校の制服着て行ったんだ」
礼さんは「まあ」と、呆れ顔で配膳をしている。俺と空はソファーに座り話し込む。
「それで、大丈夫だったのか?嫌がらせされなかったか?」
「うん、念のために派出所の近くで待ち合わせして、友達も一緒にきてもらった。そしたら、傍に寄ってもあたしだって気がつかないんだ。女子高生三人に囲まれて逆ナンされたと思ってんの」
「クククッ……。気付かないなんて、ノーメイクで制服着ていたらムリもないよ」
「真ちゃん、そこ笑うとこじゃないから」
空はツンと唇を尖らせた。
「それで?」
「耳の傍で、『あたしだよ』って言ったら、ビックリして腰抜かす寸前だったよ。『お、お前、幾つだよ』って、派出所の警察官をチラチラ見ながら、急にアタフタしてさ」
「クククッ……。そうだろうな」
「『今、十五歳だよ。付き合ってた時は中学生だった。交際を強要されてるって、警察官に訴えようかな』って言ったら、顔面蒼白になって即行逃げた。『二度と死ぬなんて脅すんじゃないよ』って、怒鳴ったらスッキリした」
「そこまでしなくても。でも、ちゃんと別れられたならよかった。もう大人とは付き合うな。男は狼なんだから、何するかわからないよ。あれ、俺も大人だよな。ヤバい、墓穴掘ったかな」
その場の空気を変えようと話しをすり替えたが、空は頬を赤らめ俯いた。
「真ちゃんは……違うよ」
「なぁに?何の話なの?」
ダイニングテーブルに配膳し終えた礼さんが、空の顔を覗き込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます