奈央side

93

 真のアパートを飛び出す直前、体調の変化に気づいた。


 ――私と真の……赤ちゃん……。


 産婦人科で診察を受けたら、すでに妊娠四ヶ月に入っていた。体調不良、情緒不安定、食欲不振、妊娠初期の兆候に気付かないなんて、自分の認識の甘さを痛感したけれど、この命を授かったことに感謝した。


 だって真の子供だから。

 大好きな……真の赤ちゃんだから。


 涙が溢れて止まらないよ。


 悲しいわけじゃない。嬉しくて、嬉しくて、涙が溢れて止まらなかった。


 でも……まだ真には話さない。


 だって真には、好きな人がいるから。


 それはきっとMILKYの社長である本宮礼さんだ。


 真が自分の気持ちを偽ったとしても、私には真の気持ちが手に取るようにわかる。


 私のことをもう愛していない真に、『結婚して欲しい』なんて自分の口からは言えない。


 プロポーズは真からして欲しいから。

 そのためなら何だってするよ。


 お腹の赤ちゃんは私が悩んでいる間にも、胎内ですくすく育っていく。


 私はこの子の親になりたい。

 真が拒むなら一人で育ててみせる。


 だけど……出産したら産後しばらくは働けない。

 一人で育てると強がっていても、結局は実家の母に頼るしかなかった。

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