91
「真に迷惑はかけないから。この子は、私一人でちゃんと育てるから」
奈央はそう言うと、俺を真っ直ぐ見た。
その眼差しに弱々しい奈央の面影はなく、凛としていて真剣な眼差しだった。
「何、言ってるんだよ。なんで今まで黙ってたんだよ。そんな大切なこと、俺は今まで何も知らなくて……」
「黙っていたことは謝ります。でも……真はそんなことにも気付かないくらい、私のことなんて忘れていたでしょう。私ね、強くなったんだよ。この子のお陰で強くなれたの。今妊娠七ヶ月なんだよ。あと三ヶ月で、私はママになる。だから……メソメソ泣いていられない」
「妊娠……七ヵ月……」
そんな……ばかな。
同棲していた時に、そんな大事なことに気づかなかったなんて。
俺は完全に混乱している。
あと三ヶ月で出産だなんて、一体どうしたらいいんだ……。
「私は真に何も望んでないよ。責任取れなんていうつもりもない。私が産みたかったから。真の赤ちゃんだから、産みたかったんだ。迷惑かけないから……だから……」
「一人で育てるって、どうするつもりなんだよ。赤ちゃんを一人で育てながら働くこともできないだろう」
「私ね、明日、千葉の実家に帰るんだ。だから真とも今日でさよならだね」
「奈央……。本当にそれでいいのか?俺は……」
「いいの。もう何も言わないで。わかってるから。真は、今好きな人がいるんでしょう。大丈夫、真の邪魔はしない。その人と幸せになってね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます