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講堂に入ると、学部ごとに分かれて整列していた。俺と奈央は同じ教育学部だ。
俺は席に着き周囲を見渡し奈央を捜すが、奈央の姿は見えない。
卒業式開始ギリギリに、赤い着物に紺色の袴姿の奈央が講堂に入って来た。
袴姿だったけれど、華奢だった奈央の体型は明らかに異なっていた。
ふっくらと膨らんでいる腹部。袴で隠してはいるけれど奈央の体形の異変に、俺は愕然とする。
教育学部の最後尾に座った奈央に、前列にいた俺は近付くことも出来ず、卒業式の最中も俺は冷静ではいられなかった。
卒業式が終了し、俺は慌てて奈央に駆け寄る。人混みを掻き分け、奈央の腕を掴んだ。
「奈央……待てよ……」
「……真、久しぶりね。卒業おめでとう」
「そんなことより大事な話がある。ちょっと来い」
俺は奈央の手を掴んだまま、講堂の外に設置されたベンチに行き座るように促した。奈央は気まずそうにベンチに腰を落とした。座ると、さらに腹部の膨らみが明らかになる。
「奈央……。もしかして、妊娠してるのか?」
奈央は口を噤み俯いた。
「奈央、黙ってたらわかんねーよ。妊娠何ヵ月なんだよ!」
「怒鳴らないで。みんなが見てるわ。見ての通り、私は妊娠してる。この子は、私の子供だよ。私一人の子供。真には関係ない」
「奈央……。そんな大事なことをどうして……」
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