【9】深愛

真side

89

 奈央が俺の前から姿を消して、三ヶ月の月日が流れた。


 ――二月、礼さんと空は今でもあの豪邸に暮らしていた。本宮氏に生活を監視され、二人は暴力に怯えながらいまだに暮らしている。


 俺は家庭教師として二人に接することは出来ても、礼さんのことを本宮氏から救い出す方法を見つけ出すことは出来なかった。


 空はルミナ聖心女学院大学附属高校の内部試験も無事終わり、内部受験生成績トップで進学が決まった。


 今まで赤点ばかりとっていた空の学力アップに礼さんは驚いていたが、空は実力を出していなかっただけで、もともと学力は高く、俺の指導がよかったわけではない。


 俺はただ週に三回本宮家に通い、空の話を聞いていたに過ぎないからだ。


 俺が家庭教師でいられるのも、あと約一ヶ月。

 空のことは一段落したけれど、気掛かりなのは奈央のことだった。


 奈央はあれから大学にも来ていない。奈央の友人である雄一や知子に聞いても、奈央の居場所は『知らない』の一点張りだった。


 大学四年の前期で卒業までの単位を全て取得していた奈央は、卒業見込みであることは確かだ。


 三月の卒業式に奈央は出席するはず。

 奈央に一目会いたい。会ってキチンとけじめをつけたい。そうしなければ、俺は前に進めない。


 ◇


 ――そして三月、大学の卒業式。

 桜の蕾も開花し、大学構内は綺麗な桜並木に包まれ、暖かな春風が校庭を吹き抜けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る