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暫くして玄関ドアが開く音がした。大きな音とともにドアはすぐに閉まった。家の外で車のエンジン音がした。
俺達は本宮氏の車が走り去ったことを確認して、空の部屋から飛び出した。
一階に駆け下り、リビングに入る。礼さんはソファーに座り、殴られた頬を氷で冷やしていた。
「……大丈夫ですか?」
「うん……。もう大丈夫だよ。ごめんね、主人はカッとなるとすぐに手が出るから。私が口答えしなければ手を上げたりしないのよ。でもダメね、どうしても反論してしまう。私が浮気していると勘違いするなんて、主人の言ってることは道理に反してる。私がもっと強くならなければいけないのよ」
礼さんは無理に平静を装うが、その表情は痛々しさすら感じた。
「私ね、離婚して欲しいと言ったの。空のためには両親が必要だよ。だから今交際している女性と再婚して、ここで暮らして欲しいと頼んだ。でも……主人は私と別れないって」
「何、勝手なこと言ってんだよ!あんな父親なんかいらないよ。知らない女と暮らすなんてまっぴらなんだよ。あたしは一人で生きて行くから、大丈夫だよ。礼はさっさと別れて自由になればいいんだ!」
空が礼さんを見て涙ぐんだ。
十五歳の少女が一人で生きていけるはずはない。
強がってる空の本心が、痛々しく感じた。
俺は礼さんの頬に触れる。
「……痛っ」
「俺にもっと力があれば……。こんなことさせないのに。痛かっただろう……可哀想に」
「真君……?」
「真……あたしは親なんかいらない。だから……礼をここから連れ出してよ!」
空が突然感情的に叫んだ。
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