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礼さんと視線が重なる。
『大丈夫だから、早く行って』
礼さんの瞳が、俺にそう訴えかけていると感じた。
心身ともに傷付き大丈夫なわけがないのに、涙で潤んだ瞳が『大丈夫』と、そう俺に語りかけている。
俺は悔しかった。
無力な自分が悔しかった。
礼さんに何もしてやれない自分が悔しかった……。
俺は拳を握ったまま、ギュッと唇を噛み締めた。
本宮氏は勝ち誇ったように俺を見た。
空の部屋に入ると、空が俺にこう言ったんだ。
「ダメだよ真ちゃん。パパに手を出したら本当に警察に通報しかねないよ。どんな手段を使っても、パパは自分が有利に立つ。警察だって検察だって権力には屈するんだ。だから、パパに手を上げた方が負けなんだよ。もうしないで」
「空、だったらどうやって礼さんを守ればいいんだよ。あれは単なる夫婦喧嘩じゃない。あれは家庭内暴力だ。礼さんは被害者なんだよ」
事実をありのままに突きつけると、空は黙ってしまった。十五歳の少女にそんなことを言っても仕方がない。
まして礼さんに手を上げているのは、空の実父なんだから。自分の父親が、非道なことをしていることは、空にも理解出来ているはずだ。
俺と本宮氏が争うことは、空を深く傷付けることになる。
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