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――『取り込んでいる』
その言葉に俺は胸騒ぎを覚える。玄関に立っていた本宮氏を押し退け、俺は室内に入った。
「すみません。失礼します」
「おい!勝手に家に上がるとは失敬だぞ!」
俺は本宮氏の言葉を無視して、ズカズカとリビングに入った。リビングの隅に視線を向けると、あの日と同じように床に蹲くまっている礼さんの姿があった。
傷付いた姿を見て、何があったのか瞬時に悟った俺は、礼さんに駆け寄った。
「礼さん……。大丈夫ですか?」
赤くなった頬。礼さんが唇を震わせて泣いていた。俺は衝動に駆られ礼さんの肩を抱き寄せた。
「もう大丈夫だよ……」
「真君……」
「礼、これは認めたも同然だな」
認めたも同然?
一体、何のことだ。
俺は本宮氏を睨み付ける。
資産家で立派な人物だとしても、女性に手を上げるなんて、人間としては失格だ。
「なんで手を上げるんだよ!なんで殴るんだよ!自分の大切な人じゃないのかよ」
「もとはといえば原因は君にもある。礼は私の妻だ。私がどうしようと、私の勝手だろ」
「何を言ってるんだ!礼さんはあんたの所有物じゃない!妻である前に、血の通った一人の人間なんだ!」
俺は思わず、本宮氏の胸ぐらを掴んだ。
「私を殴るのか?私に手を上げたら、すぐに警察に通報するぞ。君を不倫と傷害罪で訴える。それでもいいのか」
「不倫?傷害罪?訴えられるのは、あんたの方だ!」
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