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 翌日、俺はいつものように本宮宅を訪問した。


 チャイムを鳴らしても、礼さんも空もなかなか出て来なかった。


 カーポートに視線を向けると、いつも停まっていない外車が一台止まっていた。その外車に見覚えがあった。


 まさか、夫が帰宅しているのか?


 俺は胸騒ぎがして、何度もチャイムを鳴らした。ようやく門が開き、玄関のドアが開いた。


 ドアから出て来たのは、年配の男性だった。高級ブランドの黒いスーツにグレーのネクタイ、黒光りしている革靴。


 威風堂々とした威圧的な鋭い眼差しは、数百億の資産を持ち、実業家として成功した者の風格と貫禄があった。


「誰だ君は」


 低くて冷たい声は、どこか不機嫌そうだが、確かに聞き覚えがあった。この男性こそが、空の実父であり礼さんの夫だ。


 本宮氏は俺を睨みつけ眉をひそめた。


「セールスならお断りだ。帰ってくれ」


「いえ。私は空さんの家庭教師です」


「空の家庭教師?君が……そうなのか」


 本宮氏はまるで俺のことを知っているような言い回しだった。


「はい。週三日、こちらで家庭教師をしています。空さんはご在宅ですか?」


「よくもぬけぬけと顔を出せたものだ。悪いが、今日は取り込んでいる。今度にしてくれ」


 本宮氏は俺を手で追い払い、ドアを閉めようとした。

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