真side

81

 帰宅すると、奈央の様子が明らかに変だった。


 テーブルの隅には、食べ残したコンビニ弁当があった。


 まさか、いつも弁当を?


 俺が家庭教師の日は、友達と一緒に夕飯を食べていると思っていた。


 ――『真……自分で気付かないの?』


 一体何のことだよ?

 奈央の言ってる意味がわからないよ。


 ――『……ごめん。もう終わりにしたいの』


 どうして……?


 なんで……?


 俺は、奈央が……。


 泣いている奈央を抱き締めた。


 奈央は俺を拒絶し、頑なに拒んだ。


 奈央は俺が本宮家の家庭教師を引き受けたことも、夕食をご馳走になっていることも、理解してくれていると思っていた。


 だから俺は本宮家であったことや、空や礼さんの会話の一部始終、食事のメニューや食材に至るまで、事細かく奈央に話したんだ。


 奈央だって、興味深く聞いていたのに。

 どうしてこうなるんだよ。


 ――奈央は……

 気付いていたのか……。


 俺が自分の気持ちを誤魔化すために、自分の気持ちを認めることが怖くて、奈央との生活に終止符を打てないことを……。


 俺は……偽善者だ。


 ――『……真。離して』


 俺の手を振りほどき、奈央は泣きながら俺を見つめた。


 涙に潤んだ瞳、震える唇。

 奈央の真剣な眼差しに、俺はそれ以上何も語ることができなかった。


 俺は……

 奈央から手を離す。


 もうこれ以上奈央を引き止めることは、奈央を苦しめるだけだと、そう感じたから……。

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