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「奈央、もしかして家庭教師のことか?契約は三月までだから、それまで我慢してくれないか?他でアルバイトするより、収入がいいんだ」
「真……私はそんなこと望んでない。真……自分で気付かないの?」
「俺はただ、空や本宮さんが気になって……。だから一緒に夕飯を……」
「違う。真の心の中に、私はもういないのよ」
「そんなことない。俺は奈央のことを大切に想ってる」
「真、もう無理しないで。私ね、明日アパートを出て行くから。母に頼んでお金を出してもらったんだ。もうマンションも決めてきたのよ」
「奈央……」
「だから、今日は床に布団敷いて寝るね」
やっと……言えた……。
これで真の本心がわかる。
ここまで言えば、自分の気持ちに素直になれるでしょう。
どんなに隠しても、私にはわかるんだよ。真の本当の……気持ち。
「奈央……」
真が立ち上がり、私を強く抱き締めた。
体に回された真の逞しい腕を、私は振り払う。
「……ごめん。もう終わりにしたいの」
「もう本宮さんの家で夕飯は食べないから。真っ直ぐ帰るから、だから別れるなんて言わないでくれよ」
真は再び私を抱き締めた。
「出て行くな。ずっとここにいてくれ」
真の言葉に涙が溢れた。
その言葉が、たとえ本心でなくても震えるほど嬉しかった。
自分から別れようと言ったくせに、その腕にしがみつきたい自分がいる。
真の胸に顔を埋めて……泣いて縋りたい自分がいる。
でも……まだそれはしない……。
「……真。離して」
真と幸せになるためには、このままじゃダメなんだよ。
真が私だけを愛してくれないとダメなんだよ。
百パーセントの愛しかいらない。
そう気付いたから、もう真の傍にはいられない。
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