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――午後十時過ぎ、真が上機嫌で帰ってくる。
そして必ず、笑顔でこう言う。
『今日の夕飯、美味かったよ』って。
その夜のメニューや食材まで、食レポのように丁寧に、そして嬉しそうに話すんだ。
MILKYの社長でもある彼女が、プロに劣らないくらい料理上手だったとは、想定外だった。
本宮家は資産数百億のセレブな家庭。
てっきり家政婦さんか専属シェフがいて、家事全般は使用人がしていると思っていたから。
天は二物を与えないというけれど、彼女は才色兼備で女子力も兼ね備えているとは、神様も不公平だ。
真は私がコンビニ弁当を食べていることは知らない。だから、その会話に悪気がないことはわかっている。
でも、彼女の料理上手を話されるたびに、私のプライドはズタズタに傷付いた。
――午後十時、私は洗い物をしながら、時計に視線を向ける。
「奈央、ただいま」
ドアが開き、真は私を背後から抱きしめた。
そして頬にキスをした。
大好きな真に抱きしめられているのに、私は嫌悪感を抱いた。もう彼女の話は聞きたくない。
「……真、やめて」
「奈央、どうかした?」
「真……。座って欲しいの。大切な話があるんだ」
「なに?」
真は抱き締めていた手をほどく。
私は涙が溢れそうになるのを我慢して、唇をキュッと結んだ。
言葉をなかなか発することが出来ない。
言葉を発したら、泣いてしまうから。
「奈央?どうしたんだよ?」
真が私の肩に手をかけた。
「真……私と別れて下さい」
「……どうして?」
「もう……嫌なんだ。真を待ってるだけの生活が、もう嫌なんだ」
「奈央?意味わかんないよ。急にどうしたんだよ?」
どうしてわかってくれないの?
苛立ちから、ポロポロと涙が溢れた。
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