73

「年相応の男子と付き合えよ」


「年相応って何?中学生と付き合えっていうの?それはナイナイ。中学生なんかつまんないよ」


「空も中学生だろ」


「あたしが真ちゃんみたいな大人と付き合ったらダメなの?真ちゃんなら大学生だし、社会人じゃない」


「ダメに決まってるだろう。俺は三十歳なんだよ。空は俺の半分の年齢なんだ。俺を逮捕させたいのか。もちろんニ十三歳のフリーターも同じだ。ていうか、空の実際の年齢知ったら相手もドン引きだよな」


「十五歳って、そんなに子供かな。身長だって礼と変わらないし、ブラのサイズも変わらないんだよ」


 空が俺をからかうように、口角を引き上げた。


 礼さんと、ブラのサイズが同じ!?


 変な妄想をし、慌てて冷静を装う。


「どんなに図体がデカくても、メイクで歳を誤魔化しても、中学生はまだ少女だ」


 俺は空の額をコツンと指で弾いた。


「痛い!十五歳は大人だよ。子供扱いするな。十五歳だって、恋くらいするんだ。相手が年上でも、恋くらいするんだ」


「彼のことが好きなのか?」


 空は首を左右に振った。


「好きじゃないのか?空は一体どうしたいんだ?」


じゅんのことは、もう好きじゃない」


「そうか、彼と別れたいのか?」


 空は小さく頷いた。


「でも、『別れたら死ぬ』って。大人って失恋しただけで、本当に死ぬのかな?あたしのせいで誰かが死んだら困る」


「中学生に失恋したくらいで死なないよ。実際の年齢を正直に話せ。学校の制服を着て会うとか、ノーメイクで会うとか、そしたら向こうもさすがに諦めるさ」


「そうかな?結構マジみたいなんだよ。あたし、魅力的だからさ」


 空は俺を誘惑するみたいに、長い脚を組み直す。


「空、本当に別れたいのか?」


「うん。あたし……他に好きな人がいるから」


「他に?新しい彼氏?二股は賛成しないな」


「ち、違うよ。片想いの人がいるの」


「そうか。相手は中学生か?」


「大人だよ」


「また大人なのか。相手が大人なら、ずっと片想いしてろ。プラトニックラブなんて、今しかできないんだから」


「言われなくても、ずっと片想いだよ。ふん」


 空はふて腐れ、急に真っ赤になった。耳たぶまで赤く染めた空は、大人と子供の狭間で藻掻いている。


 父親の愛情を得られなかったせいか、どうやら大人の男性に恋をする傾向があるようだ。


 ――片想いか……。


 ふと、礼さんの笑顔が頭に浮かんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る