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――あれから一ヶ月が経過した。
奈央と『家庭教師が終わったらすぐに帰宅する』と約束したのに、訪問するたびに夕食を御馳走になった。
礼さんに『空のことが心配だから、暫くは勉強以外の話し相手になって欲しい』と言われたからだ。
奈央のことが気掛かりなくせに、二人のことも同じくらい心配で、俺は食事の誘いを断ることが出来なかった。
その結果、家庭教師のある日は夕食を二回食べるはめになったが、俺の下手な嘘は奈央にすぐにバレた。
――『娘さんのことが気になるんでしょう。真は優しいから、断れないんだよね。いいよ、無理しないで。私はもう平気だから』
奈央は年下だか俺よりも大人で、理解力がある女性。
俺はそう信じて疑わなかった。
◇
――本宮家――
「真君、いらっしゃい。空は部屋にいるから。今夜も夕飯食べて帰ってね」
「はい、ありがとうございます」
上着のポケットから携帯電話を取り出し、奈央にLINEをする。
【ごめん。夕飯を御馳走になるから先に食べてて。】
【わかった。私のことは気にしないで。】
奈央の不安は解消され、今では理解を得ていると思っていた俺は、次第に月水金の三日間は奈央と一緒に夕飯を食べなくなった。
三日間は奈央を束縛せず、奈央も友達と自由に過ごせばいいと単純にそう考えていた。
同棲はしているが、婚約も結婚もしているわけじゃない。礼さんの夫のように、俺は干渉も束縛もしない。
「礼さん、今夜はなに?」
礼さんは家事なんてしないと思っていたが、料理上手で見た目も味も一流ホテルの料理みたいに本格的だった。
俺達は週に三回顔を合わせ食事を共にすることで距離も縮まり、礼さんとは年齢も一歳しか変わらないということもあり、自然にうちとけ友人みたいに親しくなっていた。
「今から作るのよ。さあ何でしょう」
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