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食事をご馳走様になった俺はすっかり帰宅が遅くなり、アパートに着いた時には時刻は午後十時前だった。
「奈央、ただいま」
「真、お帰り。遅かったね。何かあったんじゃないかって心配したんだよ」
奈央は夕食も食べないで、俺を待っていた。俺は今日起きた出来事に気を取られて、奈央に『遅くなる』と、電話をすることもLINEをすることも忘れていた。
携帯電話を見ると、奈央からのLINEが数件入っていることに気付く。
「奈央、ごめん。夕飯食ずに待っててくれたんだな。俺、今日本宮でご馳走になったんだ。LINEに気付かなくて、本当にごめん」
謝る俺に奈央は無言で目に涙を浮かべた。
「悪かったよ。本宮で色々あって……」
「もう二週間だよ。毎日、毎日、大学が終わったら、本宮さんのお宅に直行して。今日は夕食までご馳走になったの?家庭教師は週三日の契約だよね。どうして真が毎日行かなければいけないの?」
「だからごめん。俺も食べるから一緒に食べよう」
本当は腹一杯で何も口にしたくなかったが、涙を浮かべている奈央に申し訳なくて、俺は奈央と一緒にテーブルにつく。
大皿にはスーパーで買ったいなり寿司と天ぷらの惣菜が盛られていた。
「美味そうだね。さあ食べよう」
俺の言葉に奈央はポロポロと泣き始めた。奈央の涙を見ると、胸が締め付けられた。
「奈央……本当にLINEに気付かなかったんだ。悪かったよ。泣くな」
右手を伸ばして、奈央の頭を優しく撫でた。
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