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「この私と離婚したいだと?」


「……はい。お願いします。ここに戻って下さい」


「私に命令するのか!君の浮気を知らないとでも思っているのか。全て教えてくれた者がいるんだ。家庭教師とのことは全部知っているんだぞ。恥を知れ!」


「違うわ。誤解しないで、何を言って……」


 次の瞬間、本宮が私に平手打ちをした。数回平手打ちされ、私はバランスを崩し床に倒れる。


「離婚はしない。お前は一生私から逃げることは出来ない。二度と私に命令するな!」


 本宮はそれだけ言うと、空に直接会うこともなく家を出て行った。


 悔しくて……情けなくて……涙が溢れた。


 二階から階段を降りる足音がする。

 真君の顔を見た途端、思わず顔を背けた。


 真君に抱きしめられ、その優しい言葉に抑えていた気持ちが溢れだす。空が見ていることも忘れ、真にしがみつき号泣した。


 空に必要なのは……

 温かな家庭……。


 両親が揃った……

 笑顔溢れる家庭……。


 他人の私には……

 空の心の空白を埋めることはできないよ。


 しばらく泣いたあと、我に返る。

 真君の腕の中にいることが、急に恥ずかしくなった。


 真君の広い胸と逞しい腕に、私は戸惑いを隠せない。真君は空の家庭教師だ。空の友人が亡くなり、空を心配して毎日家を訪れ親身に接してくれた真君。


 私は……いつの間にか彼に……?


 そんなはずはない。


 私は空の義母で、本宮の妻だ。


 ――『男が出来たのか!』


 本宮の言葉が胸に突き刺さる。


 違うよ……。

 これは愛でも、恋でもない。


 真君はMILKYの元スタッフで、空の家庭教師なのだから。

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