礼side

63

 数ヶ月振りに本宮が家に帰ってきた。突然の出来事に私の緊張は隠せない。本宮はルーズな女性を嫌う。そのため休日にも拘わらず、私はメイクをしスーツを着用し本宮を迎える。


 ギクシャクした夫婦関係。

 夫婦とはすでに名ばかりで、私達の夫婦関係はすでに破綻している。


 本宮が突然帰宅した理由は、空の担任が電話をかけたからだった。空が二週間不登校であること、授業態度や成績が急激に下がったことを実父である本宮に告げた。


 私では頼りにならないと、担任に思われたようだ。


「お帰りなさい」


「どういう事だ。空は学校に行ってないのか?お前は空にどんな教育をしているんだ!成績も落ちているらしいじゃないか!今日、学校から電話があって、恥をかいたんだぞ」


 本宮は私の話も聞かず、玄関先で一方的に怒鳴った。ズカズカとリビングに入り、さらに声を荒げた。


 本宮なりに、空のことを気にかけているのだと、私は少しだけ安堵した。父親であることを、本宮は忘れてはいない。


「ごめんなさい。でも、空も色々あったのよ。空の友達が……」


 友達が亡くなったことを告げようとしたら、本宮に突き放された。


「お前の言い訳は聞きたくない。いいな、仮にも、空は本宮corporationの後継者だ。本宮の名に傷がつかないように、しっかり教育しろ。それが出来ないのなら、教育係を雇い教育しなおすからな」


「空に教育係?」


「そうだ。後継者になるための教育もそろそろ本格的にしなければ、お前に任せていてはロクなことにはならない」


「……そうね、そうかもしれないわ。あなたにお願いがあるの。あの子には両親が必要だわ。温かい家庭が必要なのよ。私に不満なら私と離婚して下さい。そして今お付き合いされている女性と再婚してこの家に戻って下さい」


 私の言葉に本宮の顔つきがみるみる変わった。

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