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 礼さんは寿司屋に出前を注文すると、リビングを出て行った。


 俺は空の隣に座る。


「空、大丈夫か?」


「大丈夫だよ。あたしね、大人の男の人が恐いんだ。パパみたいにすぐ殴るんじゃないかって。真衣の義父だってそうだった……。大人はみんな最低だ」


「大人の男が恐い?俺も恐いのか?」


「真ちゃんは違うよ。真ちゃんは大人の男じゃないよ」


「はっ?俺も一応大人の男なんですけど?」


「そうだね。さっきの真ちゃんは男らしかった」


 さっきの……?

 礼さんをつい抱き締めてしまったことか。


 あの時は夢中だったから、冷静な判断ができなかったけど。空の目の前で、義母を抱き締めるなんて、家庭教師として失格だよな。


「いや……あれは誤解しないでくれ。違うんだよ、あれはただ……その……」


「まじで男らしくない。自分の行動を認めないのかよ」


「自分の行動は認める。生徒の母親を……その……抱き締めるなんて、軽率だった。ごめん」


「バカみたい」


 暫くして、礼さんがいつものラフな服装でリビングに戻ってきた。


 さっきまでの礼さんとはすでに別人だ。メイクも落として素っぴんだし、頬は少し赤みがさしていたが、メイクをしている礼さんよりも綺麗だった。


 三十分後、寿司の出前が届いた。

 夕食まで用意してもらい申し訳ない気持ちもあったが、三人で食卓に座り食事を取るのは初めてで少し緊張した。


 広いダイニングテーブル。十人は着座できるであろうテーブルに、僅か三人で座る。いつもは二人、もしくは空一人で食事をしていると思ったら、この家の寂しさを物語っているみたいだった。


 俺は暗くなりがちな雰囲気を変えるために、極めて明るく振る舞う。大学の話やどうでもいいようなテレビ番組の雑談。


 沈黙になることを避け、話の間が開かないように、俺は一人で喋りまくった。

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