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怒りがおさまらない俺は椅子から立ち上がる。ドアを開けた時、玄関から人が出て行く物音がした。
ガシャンと大きな音がして、玄関ドアは閉まった。数分後、車のエンジン音がして、車が走り去る音がした。
「……よかった。パパ……もう帰ったんだ」
数ヶ月ぶりに自宅に戻り、妻に罵声を上げ、娘の顔も見ないで再び家を出て行く。夫としても父親としても最低だよ。
俺は空と一緒に一階に下り、玄関に靴がないことを目視してリビングに入る。リビングに入ると床に伏せ礼さんが泣いていた。
アップにしていた後ろ髪は少しほどけて、頬は赤く腫れていた。
「……礼さん。大丈夫ですか」
俺は礼さんに駆け寄る。
「……ごめんなさい。私を見ないで……」
礼さんは俺から顔を逸らし涙を拭った。
MILKYで目にしていた凛とした強いイメージの礼さんが、俺の目の前で傷付き泣いている。
家庭の中で見せた優しい笑顔が一瞬で壊されてしまった。
空が悲しみを乗り越え、やっと日常を取り戻したのに。
何で……
どうして……。
二人の静かな暮らしを、夫だからといってズタズタに壊していいのか。
俺の胸は怒りと悲しみで締め付けられた。
こんなにも繊細で弱い礼さんを、目の当たりにしたのは初めてだった。
俺は礼さんを……放っておけなかった。
硝子細工のように、パラパラと壊れてしまいそうだったから。
礼さんに拒否されたとしても、俺の足は自然に前に進む。礼さんの前に跪き、泣いてる礼さんを両手で抱き締めていた。
「大丈夫だよ。もう大丈夫だ」
礼さんは俺の腕の中で、
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