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 勉強を始めて一時間が経過した。

 いつもなら『そろそろ休憩しなさい』って、礼さんが部屋に入ってくるのに、今日は来なかった。


「よし。一時間経ったから、休憩しよう。今日は学校の授業の遅れを取り戻すための勉強だから、他の教科で気になるものがあればあとで見るよ」


「ありがとう。真ちゃん、何か飲む?ジュースもってくるよ」


「気をつかわなくていいよ。俺はいらない」


「あたしが飲みたいんだよ。行ってくるね」


 部屋のドアを開くと、一階から男性の怒鳴り声と、礼さんの泣き声が聞こえた。


 空は慌ててドアを閉めた。顔面蒼白で体は小刻みに震えていた。


「空……大丈夫か?」


 空はコクンと頷く。

 俺は空の震える手を掴み引き寄せた。


「どうしよう……。礼が真衣みたいになったら。真衣みたいに……」


「大丈夫だよ。夫婦喧嘩はどこの家庭でもある。ジュースはいらないよ。ここにいろ」


 空がフローリングの床にへたり込み涙ぐんだ。


「ただの夫婦喧嘩じゃないよ。パパが怒鳴る時は……。あたし怖いんだ。礼になにかあったら……あたし、あたし……」


「……礼さんになにかあったら?どういう意味だよ?」


「パパが礼に暴力を……」


「暴力……」


 本宮氏が礼さんに暴力を振るうと聞いて怒りがわき起こる。自分は愛人と暮らし不倫をしているくせに、妻に暴力を振るうなんて俺には理解出来ない。


 自分のストレスの捌け口に、罪のない礼さんを傷付けたら、この俺が許さない。

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